2011年公開のイギリス・フランス・ドイツ合作のスパイ映画『裏切りのサーカス』
冷戦下のロンドンを舞台に、スパイ同士の難解でスリリングな頭脳戦を描いた作品です。
スパイ映画に多い派手な銃撃戦や爆発に頼らず、淡々と進むストーリーには伏線がたくさん張られ、どこかリアルさを感じさせるストーリーです。
最初から最後まで集中して鑑賞する必要があるため、とくに初見では結局どういうことだったのかわからないままだったりする本作。
その難解さがこの映画の面白さでもありますが、より楽しめるように特にわかりにくくなっていた部分を簡単に解説したいと思います!
Contents
原作あり!実話なの?
映画『裏切りのサーカス』には原作があります。
ジョン・ル・カレによる1974年のスパイ小説『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』で、ジョージ・スマイリーを主人公としたシリーズのひとつです。
スパイ小説作家として知られるジョン・ル・カレは、元イギリス諜報員だった経歴を持ち、その経験を活かして小説を書き始めました。
実際のスパイの様子はもちろんわかりませんが、それでも現実味を感じる生々しさがあり、ジョン・ル・カレだからこそ書ける内容なのだと思わされます。
『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』は、戦間期から1950年代にかけてイギリスで活動したソビエト連邦のスパイ網「ケンブリッジ・ファイヴ」及びその中心人物のキム・フィルビーをもとに書かれた作品です。
キム・フィルビーはMI6幹部で後にソ連の二重スパイだったことが発覚しています。
モデルになった事件と作者の諜報員としての経歴から、原作と映画『裏切りのサーカス』は非常にリアルで難解な頭脳戦が味わえる作品になったのですね!
あらすじ
米ソ冷戦下。イギリス情報局秘密情報部MI6・通称「サーカス」と、ソ連国家保安委員会KGBは水面下で熾烈な情報戦を繰り広げていました。
サーカスの長官コントロール(ジョン・ハート)は組織内部にソ連の二重スパイ「もぐら」がいる情報を掴みます。
そして「もぐら」の情報源と接触するために独断でサーカスのジム・プリドー(マーク・ストロング)をブタペストに送り込みますが、作戦は失敗に終わってしまいます。
コントロールは責任を問われて彼の右腕だったジョージ・スマイリー(ゲイリー・オールドマン)とともにサーカスを去ることになります。
引退後コントロールは死去し、同じ時期にイスタンブールに派遣されていたリッキー・ター(トム・ハーディ)の前に「もぐら」の情報を持つソ連情報部のイリーナ(スヴェトラーナ・コドチェンコワ)が現れます。
恋仲になったターはイリーナをイギリスに亡命させるためにサーカスに連絡しますが、翌日イリーナはソ連情報部に連れ去られてしまいます。
サーカス内部に「もぐら」がいることを悟ったターはオリバー・レイコン外務次官(サイモン・マクバーニー)に連絡、引退したスマイリーが「もぐら」探しを命じられることになります。
スマイリーは、自分に忠実であったために左遷されてしまったピーターギラム(ベネディクト・カンバーバッチ)と、ロンドン警察庁公安部のメンデル警部(ロジャー・ロイド=パック)とともに調査を始めます。
「もぐら」は誰?あのとき何が起きたの?
主人公のジョージ・スマイリーは引退したもののレイコン外務次官の要請により「もぐら」を探ることになります。
「もぐら」と目される幹部たちには、密かにイギリスに古くから伝わるわらべ歌になぞらえたコードを割り当てられています。
ティンカー(鋳掛屋)……現在のサーカスのリーダー、パーシー・アレリン(トビー・ジョーンズ)
テイラー(仕立て屋)……アレリンを操っているとも言われる切れ者のサーカス幹部ビル・ヘイドン(コリン・ファース)
ソルジャー(兵士)……サーカス幹部ロイ・ブランド(キーラン・ハインズ)
プアマン(貧乏人)……サーカス幹部トビー・エスタヘイス(デヴィッド・デンシック)
この作品、ストーリー展開もさることながら登場人物が多く、必要以上の説明をしないので余計に難解さに拍車がかかってるんですよね。
とくに時系列と人間関係については分かりにくかったのではないかと思います。
ポイントなる部分を簡単に整理してご紹介しますね!
流れを分かってもう1度見るとあの人はあのときこんな気持ちだったのか…と新たな視点で楽しめますよ!
解説
カーラ?ウィッチクラフト作戦って?
特に詳しい説明もなく出てくる「カーラ」という謎の人名と「ウィッチクラフト作戦」という言葉。
何やらキーになっていることは分かるのですが、いまいちピンとこないというか、複雑(に聞こえる)な内容なんですよね。
簡単に説明するとカーラとは、KGBのトップでもぐらを操っています。
名前は何度も出てきますが劇中で姿を現すことはありません。
ウィッチクラフト作戦とは二重スパイのふりをしてソ連側の情報を得るためのものアレリン率いる現在のサーカスが推し進めている作戦です。
が、実際のところは対ソ連二重スパイではなく対イギリスの二重スパイによる作戦ではないかとスマイリーは結論づけます。
このウィッチクラフトとはカーラが仕掛けた罠のようもの。
サーカスはうまく利用した気になっていながら逆にカーラ及びもぐらによって、この罠に乗せられていたのです。
誰が何のためにやっているのかがわかりにくくなっているため、注意してみないと「カーラってやつが黒幕っぽい」くらいしか分からなかったりします。
またカーラは登場しないものの、以前にスマイリーと会ったことがあり、彼の脅威と彼の弱みが妻アンにあることを見抜いています。
もぐらの正体
コントロールはもぐらの正体がスマイリーを含めたサーカスの幹部の誰か、というところまでたどり着いていました。
ストーリーの難解さとは裏腹にもぐらの正体は比較的予測がついた方も結構いらっしゃったのではないかと思います。
もぐらの正体はテイラー(仕立て屋)こと、ヘイドンです。
アレリンをうまく操り、スマイリーの妻アンとの不倫関係を持ちスマイリーに揺さぶりをかける有能な人物であることがわかります。
カーラはそんな有能なもぐらを仕込み、サーカスを掌で転がしていた訳ですから末恐ろしい人物ですよね……。
スマイリーはスマイリーで、ギラムを手足のように使い、エスタヘイズを脅し、イリーナの死を知らない工作員ターをうまくおとりとして利用するなどスパイとしての冷徹さを見せ、ヘイドンをあぶり出します。
少しメタな話になってしまいますが、登場頻度や演じている俳優からもこのもぐらの正体は予想がついてしまうかもしれませんね。笑
ヘイドンとプリドー
コントロールが独自に行ったハンガリーでの作戦は、作戦前にプリドーがもぐらであるヘイドンに内容を相談してしまったことで失敗に繋がってしまいます。
銃撃されてしまいますが実は生存していたことがわかっています。
プリドーとヘイドンは、回想でも意味ありげに視線を交わしていたように、特別に親密な関係だったことがわかります。
最後、捕まったヘイドンをプリドーが銃殺するシーンは物悲しく、プリドーはその場面で泣いているように見えます。
ヘイドンを想う気持ちからか、それとも恨む気持ちからなのか、色々な解釈できる良い場面です。
目の下を撃たれたヘイドンが、涙のように血を流すのも非常にエモーショナルですよね。
最後に簡単にまとめ
パーシー・アレリン(ティンカー)……現サーカスのリーダーだが、カーラやヘイドンに転がされていただけ。
ビル・ヘイドン(テイラー)……もぐら。スマイリーの妻アンと不倫関係にあり、プリドーとも特別な関係。
トビー・エスタハイズ(プアマン)……日和見的で強い側につくだけの人。スマイリーに利用される。
リッキー・ター……工作員。イリーナの死を知らずに、もぐらからを誘い出す囮としてスマイリーに利用される。
イリーナ……もぐらの存在を示唆。ターがサーカスに連絡した後すぐにソ連側に連れ去られる。死亡。
ジム・プリドー……ヘイドンとは親友以上の関係。ハンガリーでは銃撃され、拷問されるが生存。捕まったヘイドンを射殺する。
カーラ……もぐらを操るソ連側の幹部。黒幕的存在です。
実際の事件をモデルに元イギリス諜報員が原作を書いただけあって映画も独特のリアルさが漂っています。
わりと表情の少ない登場人物が多いですが、キャラクターのそのときの心情を考えながら観るとまた感慨深い大人な作品です。
人物が多く関係性がわかりにくいので、そこをある程度把握してまた鑑賞すれば流れが掴みやすくなりますよ!
2回目以降の鑑賞ではとくにスマイリー、ヘイドン、カーラの名前に注意してみるのをおすすめします!
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