にぎわう市場の片隅で牛皮に包まれた何かが見つかります。
到着した警官が縫い付けられた牛皮を切り開いて中身を確認すると、そこには窒息死した男の姿。
これを皮切りに次々と見つかる死体たちは、いずれも猟奇的な方法で殺されていました。
2020年4月22日からNetflixで配信されたポーランドの映画『ブレスラウの凶禍』
今回は、ハードな内容と意外な結末に引き込まれる犯罪サスペンス映画『ブレスラウの凶禍』をご紹介します!
『ブレスラウの凶禍』とは
2018年ポーランドで制作されたサスペンス映画で、日本では劇場未公開の作品です。
監督はパトリック・ベガ。日本ではなじみのうすい監督かもしれません。
ポーランドのヴロツワフを舞台にしたサスペンス映画です。
タイトルの「ブレスラウ」とは、ヴロツワフをドイツ語にしたものだそうです。
プロイセン領時代の事件”ブレスラウの凶禍”(監督の創作によるもの)になぞらえておこる事件の連続に、本作を観てデヴィッド・フィンチャー監督の『セブン』を連想した方が多いようです。
検死のシーンなど死体の断面図の描写がよく作りこまれており、かなりグロテスクです。苦手な方は要注意なレベルです。
ネタバレ・解説
軽く場面を分けて説明します。
事件のはじまり
神妙な面持ちで車の中にいる女性。
ナンパしてくる男たちにも耳を貸さず、その手には銃を握りしめています。
場面は変わって、人でにぎわう市場。
男の子が物陰に牛皮に包まれた何かを発見します。
まもなく通報によって駆け付けたのが刑事ヘレナ。
冒頭で車の中で銃を手にしていた女性です。
ぼそぼそと気だるそうな話し方と尊大ともとれるような態度で現場を取り仕切ると、牛皮の品種をすぐに分析します。
釣り糸で縫い付けられた牛皮を切り開くと、出てきたのは死んで間もない男の死体。
腹部には「堕落者」の言葉が焼き刻まれているのがわかります。
検視官によると、乾くと縮んでいく牛皮の性質により、被害者は生きた状態で皮に包まれ窒息死したことがわかります。
さらに使われた牛のID番号から、ヴロツワフにある牧場を特定することに成功します。
すぐにその牧場へ向かい、牧場節の話から牛が一頭消えたことが判明します。
牛を購入している食肉加工の会社を調査してみると、被害者の男が働いていたことがわかります。
その男は他の従業員を冷蔵庫に閉じ込める等のいじめを行っており、みんなから嫌われていたと言います。
恨みによる犯行だとすれば容疑者が多く、捜査は前途多難です。
しかし、事件はまだ終わりません。
ブレスラウの凶禍
二頭の馬が街中を暴走しているという通報を受けてヘレナら警官が出動します。
仲間と二手に分かれて馬を追うことにしたヘレナは、牧場育ちのスキルを活かして馬を落ち着かせることに成功します。
よく見ると馬にはロープが括りつけられ、その先をを辿ると無残にも引きちぎられたような状態の男の死体を発見します。
ヘレナは急ぎ仲間のもとへ向かいますが、興奮した馬を落ち着かせるのにかなり苦戦しています。
そしてヘレナの相棒が馬に頭部を踏みつけられる重傷を負ってしまいます。
ヘレナが馬を落ち着かせるとやはりロープが括りつけられており、その先には引きちぎられた男の手足が繋がっていました。
男の死体には「略奪者」と刻まれていました。
意識不明の重体になった相棒に代わり、警察本部からイウォナという女性プロファイラーが派遣されてきます。
イウォナは今回の事件を「ブレスラウの凶禍」をなぞったものだと分析します。
特定の罪を犯した者を公開処刑するという週間で、日曜日以外の曜日に割り当てられた犯罪を犯した者を処刑するというものです。
堕落・強盗・賄賂・中傷・抑圧・不正と罪があり、あと4名がこの後も殺されることが推測されます。
次の殺人はオペラ劇場で起こりました。
舞台上で、役者や観客のいる前で磔にされた女に放火されるというもの。
劇場はパニックになりすぐに人々は避難しましたが、炎は燃え広がることなく被害者を燃やし尽くして消えます。
到着したヘレナが現場を調べると、炎が燃え広がらないように工夫が施されていることがわかります。
意外な展開
ヘレナは突然上司に呼び出されます。
そして警察本部にイウォナという人物は存在しないという事実を聞かされます。
衝撃を受ける中、イウォナから電話がかかってきます。
「窓から離れなさい」という内容のもので、その後すぐに窓を突き破って男の死体が部屋の中に放り込まれます。
この連続殺人事件の犯人はイウォナであることがわかります。
イウォナは偽名で、本名はマグダ。
マグダは波乱万丈の人生を送っていたことがわかり、一連の被害者たちは過去マグダに対してパワハラをしたり、子どもを人身売買しようとするなどの悪事を働いたものたちでした。
5人めの被害者はドラム缶に入れられて坂道から転がされます。
中に刃が取り付けられていたのか、被害者の身体は血だらけになります。
駆け付けたヘレナはイウォナを追いかけますが、イウォナに背後から殴られ気を失ってしまいます。
なんとか意識を取り戻したヘレナは署で手当てを受けます。
ヘレナのスマホにある画像から次のターゲットがヤギエルスキ首相であることがわかります。
翌日、イベントでスタジアムを訪れる首相。
ヘレナも事件に備えてスタジアムでスタンバイしています。
首相に贈られる金色のヘルメットが運ばれ、首相がそれをかぶろうとしますがヘルメットの中に何かが入っているのを見つけます。
マグダの首でした。
マグダは5人の悪党(被害者たち)と、それらの罪を黙認する社会を知りながら何もしない首相に対して復讐をしたのです。
ブレスラウの凶禍をなぞった一連の事件は、犯人自らの命を以って終わりを告げました。
しかし、最後マグダ自身の首を首相に渡すには協力者が必要です。
マグダはその協力者にヘレナを選びました。
5人目の事件のあと、自分を追ってきたヘレナを気絶させたあと、自力でほどける程度のきつさで拘束します。
そして目覚めたヘレナに自らの思いを話します。
ヘレナはよっぱらいに婚約者を殺されるという悲しい過去を持っていました。
冒頭で車の中で銃を持っていたのも、復讐を考えていたからでした。
マグダはそんなヘレナの姿を見ていたのです。
マグダは社会への復讐を誓い、自分の思いをヘレナに託して彼女の目の前でギロチンで自らの首を斬り落とします。
奇妙な繋がりを覚えたのか、復讐者としての意思を受け継いだヘレナはマグダの首を回収します。
首相に送られた金色のヘルメットにマグダの首を入れたのはヘレナでした。
そして最後にヘレナは婚約者の復讐を達成しようと行動に出ます。
復讐者の結末
ヘレナ
本作の主人公にあたる刑事ヘレナ。
優秀な刑事で、イウォナと組んで事件の解決にあたります。
意味ありげな登場シーンや、家で悲しみに暮れる様子から婚約者を亡くしどこか前を向けていない描写があります。
最後にはイウォナ(マグダ)の意思を継いで事件を完結させ、自らの復讐も達成しようとする衝撃的な結末を迎えます。
アシンメトリーで印象的な髪形やミステリアスな言動は『ドラゴンタトゥーの女』シリーズのリスベットを彷彿とさせます。
イウォナ/マグダ
ヘレナとタッグを組むイウォナ。
歴史に詳しく分析力に長けたイウォナは、警察本部からヘルプとして派遣されてきます。
しかしその正体は社会の闇に苦しめらたマグダという平凡な女性。
今回の事件の犯人ですが、意識不明の重体になったヘレナの相棒をマッサージし、その家族を励ますなど、優しい善人の面も持ちます。
やったことはひどいことに違いはありませんが、もとは善良で平凡な女性だったマグダ。
社会の悪行や不正といった環境が彼女を復讐者に駆り立ててしまったのですね。
してしまったことは許されるものではありませんが、同情してしまう面も多分にあります。
結果的に背中を押したのがヘレナだったということからも、ふたりが復讐者として生き死んでいくことは運命に近いものだったのかもしれません。
まとめ
牛皮に包まれた男の死体から始まる猟奇的な連続殺人事件。
過去に行われた「ブレスラウの凶禍」になぞらえたこの事件を解決するためにヘレナとイウォナがタッグを組みます。
しかし事件の途中でイウォナもといマグダが犯人であることがわかります。
マグダは社会の悪への復讐を果たすため、罪を犯した者たちに制裁を下していました。
最後にその意思を託されたヘレナもまた、復讐者として生きる道を選んだ、ととれる結末。
インパクト抜群のエンターテインメント性と骨太なサスペンスがとても見応えがあります。
その分、殺害方法の仕掛けがかなり大掛かりで現実離れしている面などもありますが非常に考えさせられる内容でしたね。
オチが重要なタイプの映画ではありますが、細かな伏線などもあるので複数回の鑑賞も楽しめます!
ヘレナとマグダ、ふたりの辿る結末は賛否ありそうですが、あなたはどう思いましたか?
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