楽しそうに食卓を囲む家族。
夢のマイホームで暮らす幸せな未来。
一見なんの変哲もない家族が、実際に問題になっているゼロアワー労働問題に直面し、すれ違っていく様を描いた作品『家族を想うとき』
『わたしは、ダニエル・ブレイク』でパルムドールを受賞した名匠ケン・ローチが贈る、家族の絆を描いた切なく心揺さぶる感動作です。
どんな作品なのか、気になる内容をご紹介します!
あらすじ・ネタバレ
イギリスのニューカッスルに住むターナー家。
リッキーはマイホームを購入し家族で幸せに暮らすことを夢見て、フランチャイズの宅配ドライバーとして独立することを決意します。
しかし配送事業を始めるには、配送用の車を自分で用意する必要があるなど、お金が必要でした。
介護士として働く妻アビーが訪問介護のために使っていた車まで売り払い、資本金にします。
車を使えなくなったアビーは、移動時間が長くなったことで家にいられる時間が減ってしまいます。
リッキーの仕事も配送する荷物に個数に応じて報酬が変わり、必要とあらばすぐに配送しに行かなければいけないため、2人は休みなく働くはめになってしまいます。
高校生の息子セブと小学生の娘ライザ・ジェーンとのコミュニケーションをとる時間が減っていき、子どもたちは寂しさを募らせていきます。
家族と幸せに暮らすために始めた仕事が、家族との時間を奪い、家族を引き裂いていく結果に……。
実際にイギリスが抱えている労働と貧困の問題を、ひとつの家族にスポットをあてて丁寧に描いた作品です。
日本でも労働環境が問題視され、話題になることが多いですね。
リッキーとアビーはマイホームのために長い時間働きづめになりますが、それは”待機時間”や”移動時間”が増えただけで、収入が増えるどころか借金が膨れていくばかり……。
家族のために自分を犠牲にして働いているのですが、子どもたちが望んでいるのはそんなものではありませんでした。
やがてセブは非行に走り、ライザ・ジェーンは家族がバラバラになっていくことを感じ取り心を痛めます。
お互いに想い合っているはずなのに、すれ違っていくターナー家。
働く環境の問題とともに、家族としての在り方も考えさせられる作品です。
いったいどんな結末を迎えるのか、家族の絆を取り戻すことはできるのかが見どころですね!
海外の評価
メガホンをとったのはイギリスの名匠ケン・ローチ監督。
2006年の『麦の穂をゆらす風』、2016年の『わたしは、ダニエル・ブレイク』で二度パルムドールを受賞しています。
『わたしは、ダニエル・ブレイク』ではイギリスの障碍者差別を背景に雇用支援金の現状を描きました。そのリサーチ中にゼロアワー労働者の厳しい現状を知り、一度引退を宣言するもそれを覆して本作を撮りました。
それだけ監督の想いが本作に込められているということですね。
本作『家族を想うとき』は、第72回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門ほか海外の映画祭に出品され、喝采を浴びました。
予定調和で収まるのではなく、あくまでもリアリティを重視しながら現代的なテーマと普遍的な家族の絆を描き、共感と感動を呼んでいます。
本作をより魅力的にしているのはキャストで、メインキャストは全員オーディションで選ばれたほぼ無名の役者たち。
リッキーを演じるクリス・ヒッチェンは配管工として20年以上働き、40歳を過ぎてから演技の道へ進んだ経歴を持ちます。
まとめ
労働環境や家族間の問題は、誰にとっても身近なことと言えるのではないでしょうか。
イギリスの現状を丁寧に描いた『家族を想うとき』は、問題に対する意識と共感を与え、心を大きく揺さぶる作品になっています。
辛くたまらなくなる描写もありますが、それゆえに家族とどう向き合っていけばいいかを考えるきっかけにもなる傑作です。
『家族を想うとき』は2019年12月13日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開です!
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