2018年に日本公開されたアメリカのSFスリラー映画『アルカディア』
日本での公開は小規模ではありましたが、続々と出てくる謎と低予算ながら丁寧でツボを押さえた演出でオカルトホラーやスリラーが好きな人にはとてもおすすめの作品です。
10年前に自給自足の集団アルカディアから抜け出した兄弟が不可解な現象に巻き込まれていくというミステリアスなストーリー。
今回はその『アルカディア』の解説や結末についてをネタバレしながらご紹介していきたいと思います!
Contents
映画『アルカディア』
監督・脚本はアーロン・ムーアヘッドとジャスティン・ベンソン
二人は本名のアーロン、ジャスティンそのままの名前で主人公の兄弟役を演じています。
アーロンとジャスティン兄弟は10年前、自給自足で生活するキャンプ、アルカディアなる集団から抜け出し、その後清掃業をしながらふたりで細々と生活をしていました。
アルカディアはちまたでは「カルト集団」とも言われ、とくに兄のジャスティンはアルカディアを快く思っていません。
そんな兄弟のもとにアルカディアから1本のビデオテープが送られてきます。
ビデオの映像には、ひとりの女性が笑顔で”昇天”について語っています。
ジャスティンはアルカディアで集団自殺をするといううわさを聞き、アーロンとともに抜け出したのですがアーロンはアルカディアに対して好意的です。
そしてアルカディアに戻りたいと言い出します。
ふたりは1日だけアルカディアに滞在することを決めました。
幽霊や殺人鬼が出てくるわけではありませんが、とにかく不気味な雰囲気を纏った本作はアルカディアの平和と善意に満ちた描写さえうすら寒く感じるほど。
アルカディアに対する感情がまったく正反対の兄弟が不可思議な現象に巻き込まれていくことになります。
どんな人におすすめ?
どんどん謎めいた現象が出てきます。
その場で詳細の説明もされず、中にはジャスティンとアーロンとで見え方や受け取り方が違っていたりするなどとにかく不可思議です。
言葉少なめに語る住人たちの話からは、どこか架空の神話”クトゥルフ神話”に通ずる部分が多くあります。
オカルトやクトゥルフ神話好きな方にはまずこの映画の雰囲気からして楽しめるのではないでしょうか。
また、ミステリアスな謎だけでなく兄弟の心情や絆も丁寧に描かれているために超常現象に遭遇した時などの突発的な言動にも説得力があります。
謎を見せたいがための演出ありきの展開になっておらず、ドラマ性もあるので単なるホラーに留まりません。
スリルは味わいたいけど、登場人物に共感できなかったり行動に矛盾があると冷めてしまう…そんな方にもぜひおすすめです!
『アルカディア』のストーリー・結末※ネタバレあり
10年ぶりにアルカディアへと戻ったアーロンとジャスティン。
キャンプはふたりを温かく歓迎してくれ、1日といわずもっと長く滞在するように勧めてくれます。
10年ぶりの再会ですが、キャンプの仲間たちはほとんど歳をとっていないように見えました。
夜、キャンプファイアを囲みかつての仲間たちと楽しく過ごします。
アルカディアにある伝統のひとつを行うことになり、暗闇から垂れ下がる縄を思いっきり引っ張ります。
ジャスティンも縄を引っ張りますが、凄まじい力で引っ張り返され手にけがを負います。
アーロンの提案でもう少しアルカディアに滞在することになりました。
しかし何気ない日常を過ごすなかで違和感をぬぐい切れないジャスティンはかつての友人のハルに相談します。
ハルは「偉大なる存在」「永遠の時間」など不可解なことを話します。
その後もジャスティンは化け物に足を引っ張られるなど異様な現象に遭います。
ジャスティンはついに不信感を募らせアルカディアを出ていく決意をします。
ところが弟のアーロンはアルカディアに気に入り残りたがります。
しかたなくジャスティンはひとりで車に向かいますが、近くの民家で首つり死体を発見します。
さらに驚くことに死体と同じ顔の男がやってきてジャスティンに話しかけます。
男の話によると、アルカディアでは時間がループしており同じ生と死を繰り返していることが分かります。
その男は3時間の命を何度も繰り返していました。
更にもうじき”リセット”の時がやってきて、それまでにここから抜け出せないとジャスティンたちもループに囚われると言います。
翌日、アルカディアに残ったアーロンでしたが兄が心配になり探すことにします。
テントを見つけたアーロンはその中で死ぬまでの5分間を何度も繰り返し続けている男の姿を見つけて驚愕します。
兄弟は無事に合流するものの、やはりアーロンはここに残りたいと言います。
ふたりはアルカディアの貯蔵庫に入り、そこにあったテレビの映像を見ます。
その映像の中にはハル含めたアルカディアの人々が広場に集まっており、そこに巨大な何かが人々を飲み込んでいくという恐ろしいものが映っていました。
急いで広場に向かいましたが、血がついた衣服が残っているだけでした。
リセットが始まり、目に見えない何かが時空ごと飲み込み始めます。
兄弟は急いで車のエンジンをかけて脱出します。
映画の考察
神のような存在
一見平和に見えながら、どこか様子がおかしいアルカディア。
住人たちは繰り返されるループの中で生活し、特定のタイミングでその命を見えざる何かに捧げていました。
そしてふたたび新しいループが始まっていく……
ハルの発言からアルカディアを覆う大きな何かの存在がいることがわかります。
ジャスティンが遭遇した化け物や不可解な現象も、おそらくはその存在を証明するためのものだったのではないでしょうか。
自ら姿を現すことはありませんが、たしかにそこに存在し、一定のタイミングで住人たちの命を飲み込む。
まるで神様のような存在とも言えます。
アルカディアの住人たちはこの神を信仰していたように見えますが、そうではない人もいました。
神の存在に反発していたのがジャスティンが出逢った首を吊って死んでいた男です。
自らの意思で死を選ぶも、結局のところはループから抜け出すことはできずにいました。
アルカディアとはなんだったのか
自給自足で生活をするキャンプ・アルカディア。
カルト集団と言われたりもしますが、住む人たちは基本的に良い人ばかりです。
それゆえに自分たちをループに閉じ込めている存在を受け入れ、見守ってくれていると信じている異質さが際立ちます。
映画の中でアルカディアとはなんだったのか詳細を明かされることはわかりませんが、アルカディア(理想郷)の意味が示す通り住む人たちにとっては理想的な村だったのでしょうか…。
2020年3月に日本で公開され、カルト的に話題になった映画『ミッドサマー』にも通ずる要素がありますね。
不気味な何かを崇める善意に満ちた人たち。
このギャップからくる恐怖や違和感はある種ひとつの映画としての魅力とも言えますね。
描かれている兄弟の絆と選択
ジャスティンとアーロンは意見が合わずよく喧嘩をしていますが仲が悪いわけではありません。
とくに兄のジャスティンは弟のアーロンに対して厳しさを見せたりもしますが同時に心配し身を案じていることがよくわかります。
アルカディアに対して違和感を覚え、アーロンの意思を尊重しながらも長く滞在することには反対しています。
一方のアーロンは、ここ10年の清掃員としての生活に辟易していてアルカディアでの生活に戻ることを望んでいます。
映画の終盤、アルカディアに残りたいと言う弟に対しジャスティンが「ループを続けることになるんだぞ」と言って反対しますが、アーロンは「これまでの生活も同じ事の繰り返しだ」と反論します。
最終的にふたりはお互いへの思いを本音で語り、協力しあって無事にループに取り込まれる前に脱出することに成功します。
意見の食い違う兄弟を主人公にすることでアルカディアで起こる現象の受け取り方に幅を持たせ、兄が考えすぎなのでは?弟は騙されているのかも?などと考えながら鑑賞することもできます。
また、同じ繰り返し=ループの生活をするとして、平和ながら何かに監視されたまま生きるのか(アルカディアでの生活)、貧しい生活でも信頼できる人とともに自分の意思で生きていくのか(アルカディアの外での生活)という選択の訴えかけにとることができます。
ふたりは自分たちの意思で生きていく方を選択したことになりますね。
まとめ
兄弟が10年ぶりにもどったキャンプ・アルカディア。
実は住人たちが死ぬまでの生活を繰り返し続けるループに囚われた世界でした。
見えざる巨大な何かが監視あるいは見守っている中で、住人たちは楽し気に暮らしていたのです。
アルカディアから出たい兄ジャスティンと残りたい弟アーロンを主人公にし、クトゥルフ神話テイストの上質なスリラー映画『アルカディア』
日本ではあまり有名な作品ではありませんが、観れば納得の掘り出し物です!
一度みたあとも考察をしながらまた鑑賞したくなる作品ですね!
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